殺処分ゼロの定義を明確にする事で明白になった形骸化したスローガン

先日、「環境省は自治体が掲げる犬猫の殺処分ゼロの定義を明確化し、譲渡が難しいケースを除外する方針を固めた。」とのニュースが流れた。病気や攻撃性を持つ譲渡困難な犬猫を除いた形で集計を行っていくとのこと。

(参照)「殺処分ゼロ」、定義明確に=譲渡困難な犬猫除外-環境省 (時事通信社)

環境省の公式発表がないため、その意図が不明瞭で記事からしか分析できないが、現時点でわかるこの方針における課題を整理したい。

定義の基準をどう作るのか

病気や攻撃性がある犬猫とあるが、保護された動物は一定の緊張状態にあり、それは施設内にいる間も同じ事が言える。本当に攻撃性があるかどうかをどう判断するのか。

誰が判断するのか

病気や攻撃性の改善が困難と判断するには獣医師やトレーナーなど識者の見解が必要となるはずであり、その人員をそれぞれの自治体が現時点でも人手不足の中、果たして確保ができるのか。

運用の適性はどうチェックするのか

この方針を悪用すれば「譲渡が困難でした」とする事で、幾らでも数字が操作できる事になる。誰がどのようにチェックを行うのか。

「譲渡困難」数は公表されるのか

環境省はこれまでも「犬・猫の引取り」とは別に「負傷動物」という区分を設け公表している事から、おそらくは譲渡困難の数も公表すると考えられるが、万が一公表されなくなった場合、誰も正確な殺処分数の把握ができなくなってしまう危険性がある。

除いた形で集計する事に意味があるのか

記事には以下のように書かれている。

環境省が集計・発表している殺処分数には譲渡に適さない個体や保護中に死んだ個体もカウントされるため、完全にゼロにはできない課題も出てきた。(時事通信社)

この記事の内容を真に受けるのであれば、殺処分数の集計という点においては全く意味がないと言える。すでにSNS上でも「ゼロじゃないじゃん。」「殺処分ゼロ自体が何を目指してるのかわからなくなっている」など「殺処分ゼロ」というスローガンに対する疑念が生まれている。

そもそも定義はこれでいいのか

殺処分ゼロは既に行政や自治体だけのスローガンではなく、広く認知され一般用語となりつつある。以前下記の記事にも書いたように「保護団体への譲渡という一時しのぎ」を無視して語れるスローガンではなくなっているのではないだろうか。

環境省が最新の犬猫引き取り状況を発表。殺処分数は前年比70%以下に。

2017年9月19日

一方で病気や攻撃性を持つ犬猫が通常の犬猫とは譲渡にかかる手間やコストが大きく異なり、理想としては殺処分ゼロを目指すべきだが、現時点で殺処分の頭数を減らすために後回しになっているのも事実である。その頭数がどれだけ存在しているのか状況把握をする上で参考にはなるため、上記のような課題をクリアした上で公表されるのであれば意味があると考えられる。

何はともあれ見せかけの殺処分ゼロではなく本当の意味での殺処分ゼロを目指し、引取り数を減少する法改正などの取り組みが今後出てくることに期待したい。

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