ペットの飼い主も必見!改正された動物愛護法のポイントを徹底解説

令和元年となる今年6月12日、7年ぶりとなる動物愛護法の改正が成立した。犬猫の殺処分という社会問題だけではなく、最近では動物虐待の事件も頻発しており、厳罰化などの規制強化を求める声が大きくなる中での改正となった。

犬猫さがしでは今回の改正の重要なポイントをまとめ、その概要と積み残した課題について解説する。主な改正ポイントは以下の12点。

今回の動物愛護法の主な改正ポイント
第一種動物取扱業への登録拒否事由の追加
第一種動物取扱業への遵守基準の具体化
販売時の対面による情報提供場所の限定化
勧告・命令制度の拡充
販売時期制限の緩和措置の廃止
適正飼養のための規制強化
動物殺傷罪等の厳罰化
引き取り拒否事由の拡充
殺処分方法に係る考慮
獣医師による通報の義務化
地方公共団体に対する財政措置
マイクロチップ装着

動物愛護や動物福祉に関心のある方はもちろんのこと、犬猫の飼い主の方も知っておくべき改正点もある。まずは一つずつ解説していく。

今回の動物愛護法の主な改正ポイント

① 第一種動物取扱業への登録拒否事由の追加

第一種動物取扱業(ざっくり定義するとペットの繁殖や販売、保管、展示を行う業)は事業所の所在地を管轄する地方自治体(都道府県知事や市長)に登録しなければならない、いわゆる登録制となっている。これまでも不適切と思われる業者の登録を拒否できる事由の記載はあったが、それがさらに追加された形だ。

これまでは「登録を取り消されて、その処分から2年経過していない者」や、「動物に関連する法律(狂犬病予防法など)で罰金以上の刑罰を受け、執行が終わり2年経過しない者」、または法人は「役員に前述の該当者がいる場合」が拒否対象となっていた。

今回の改正では新たに「禁固以上の刑に処せられ、執行が終わり5年経過しない者」や「暴力団員や暴力団員ではなくなってから5年経過しない者」、「それらに該当する使用人がいる法人」などが加わり、拒否事由の追加と拒否期間が2年から5年に長期化、そして対象が役員から使用人まで広げることで登録の難易度をあげた形となった。

② 第一種動物取扱業への遵守基準の具体化

今回の改正で動物愛護、動物福祉に関心が高い方がもっとも注視していた点がこのポイントだ。これまで劣悪な繁殖業者や生体販売業者の実態を行政が把握しても、その実態はほとんど改善されてこなかった。

判決内容に怒りの声続々。動物愛護法の適正な運用を求める署名活動が活発化

2017年9月8日
その理由はこれまでの遵守基準には「衛生管理や生活環境の保全に支障が生じない」や「日常的な動作を行うのに十分な広さ」という曖昧な条文しかなく、基準に明確な数値がないため行政も曖昧な指導しかできなかったためだ。

今回の改正では「設備構造」「従業員数」「飼養・保管環境」「展示・輸送方法」「繁殖回数や方法」などの項目について、動物の愛護と適切な飼養に必要となる具体的な基準を設けることを定めた。

これにより客観的な数字を用いた指導・勧告・命令を行うことができるようになり、劣悪な繁殖業者・生体販売業者を規制しやすくなる見込みだ。

③ 販売時の対面による情報提供場所の限定化

これまでも犬猫の販売業者は購入者に対し対面で動物に会わせることと、飼養に必要な情報を提供することが義務付けられていた。しかし、この条文のわずかな隙間を縫う形で事業所ではないところで「対面させた」という形式だけとって販売する業者がいた。

そういった不正がなされないように今回の改正では「対面する場、情報提供する場は事業所に限定する」と追記される。

④ 勧告・命令制度の拡充

これまでも行政は基準を遵守しない業者に対して改善すべきことを期限を定めて勧告し、従わない場合は命令することができた。しかしそれでも改善されてこなかったのは前述の通りである。

そこで今回の改正では「勧告に従わない業者を公表できる制度を設けること」、「特別な事情がない限り勧告・命令について三月以内の期限を設けて行う」などを追記し、勧告・命令の影響力をあげる狙いだ。

⑤ 販売時期制限の緩和措置の廃止

幼犬猫は親や兄妹と共に過ごすことで社会性を身につけることができる。社会性を身につけないと大人になった時に人を噛むなどの問題行動を起こしやすくなるため、販売の時期を定めた規定がこの条文である。科学的検証の結果、社会性を身につけて親元から引き離しても問題ない時期は出生後56日以降とされ、多くの海外ではこの基準が適用されている。いわゆる8週齢規制と呼ばれるものだ。

7年前の改正時にはこの条文が大きなテーマとなり、日本の法律でも出生後56日の犬猫は販売禁止という条文が追加された。しかし経過措置という名の下に「56日を49日と読み替える」という附則が付き、骨抜きにされた苦い思い出がある。

今回の改正でも大きな焦点となり、売りやすい幼犬猫の状態で卸したい繁殖・販売業者と動物愛護・福祉関係者との間で綱引きが続いていた。結果は「経過措置に係る規定を排除する」となり、ついに動物愛護関係者が念願だった8週齢規制が成立した。しかし一筋縄で行かなかった。新たな附則が設けられたのだ。詳しくは積み残した課題のパートにて説明する。

⑥ 適正飼養のための規制強化

ここまではペット業者に係る条文が多かったが、この条文は一般のペット飼い主も該当する内容だ。これまでも周辺の生活環境が損なわれる事態を生じさせている飼い主や、虐待など適正な飼養ができていない飼い主に対し、行政は改善に向けた勧告・命令をすることができた。

しかし昨今の一般の飼い主の多頭崩壊や虐待事件の状況を鑑み、さらに一歩踏み込めるよう、「飼養状況に関する報告徴収又は飼養施設への立入検査を行うことができる」と追記された。さらにこれまで努力義務とされていた繁殖制限についても、「適正飼養が困難となるおそれがある場合、避妊・去勢手術を講じなけれならない」と義務化された。

⑦ 動物殺傷罪等の厳罰化

一昨年に起きた猫を13匹虐待殺傷した埼玉県の事件を覚えているだろうか。

13匹の猫への虐待殺傷の罪が「懲役1年10ヶ月、執行猶予4年」なのは妥当なのか。

2017年12月12日
この事件に下った判決内容は、これだけ残虐な事件を起こしても懲役1年10ヶ月、執行猶予4年という軽い罪だった。この事件の後も面白半分で動物虐待する動画やSNSでの投稿が後を立たないことからも抑止力になっていないことは明らかだった。

この状況を受けて以下のように改正された。

愛護動物の殺傷に対する罰則
Before After
二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金 五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金
愛護動物の虐待・遺棄に対する罰則
Before  After
百万円以下の罰金 一年以下の懲役又は百万円以下の罰金

殺傷については懲役刑の期間が大きく伸び、虐待・遺棄についても懲役刑が追加された。この厳罰化に大きく尽力した中野洋昌衆議院議員も「他の法律とのバランスを考える必要があり、調整は困難だった。今回の改正は法制局としてもかなりのイレギュラー」と述べていた通り、昨今の虐待事件の状況を重く受け止めた結果となった。

⑧ 引き取り拒否事由の拡充

7年前の改正時に自治体は犬猫販売業者からの引き取りを拒否できるようになった。しかしその結果、遺棄するという抜け道を与えることになってしまい、所有者不明の犬猫として引き取ることになっていた。

こういった抜け道を与えないよう、今回の改正で所有者不明の犬猫についても、周辺の生活環境が損なわれる事態が生じていないなど、引き取りを求める相当の事由がない場合は拒否することができるとなった。

⑨ 殺処分方法に係る考慮

数は年々減少傾向にあるが、未だ殺処分は負傷動物を含めると犬猫合計で約5万匹行われている。殺処分に係る条文には「できる限りその動物に苦痛を与えない方法」と書かれているが、現在日本で主流となっている方法は炭酸ガスによる昏睡、窒息死という方法である。二酸化炭素は苦しむことなく昏睡状態になりそのまま死に至るというのが見解だが、実際は炭酸の濃度調節が困難で昏睡状態になる前に窒息死するケースが多くあり、方法の改善も長年指摘され続けたテーマだ。

今回具体的な方法については言及されていないが、「国際的動向に十分配慮するよう努めなければならない」と追記され、一層改善を目指していくことが重要視された形となった。

⑩ 獣医師による通報の義務化

これまでも獣医師には殺傷・虐待と思われる動物を発見した際は「通報するよう努めなければならない」と努力義務が課せられていた。

今回の改正で努力義務から義務へと引き上げられ、かつ「遅滞なく行わなければならない」と義務としての努めを強化した。

⑪ 地方公共団体に対する財政措置

これまで自治体は動物愛護活動を推進したくても予算が少なく、できることが限られていた実態がある。

今回の改正で業者への対応や愛護推進、殺処分方法の検討など、ますます自治体が取り組まなければならないことが増えているため、「国は、自治体に対して必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする」と記載されることになった。

⑫ マイクロチップ装着

これまでもトレーサビリティや災害時の返還率向上の観点からマイクロチップの装着について検討されてきた。

今回の改正では犬猫販売業者に対してマイクロチップの装着義務が課せられた。一方、一般の飼い主に対しては「マイクロチップを装着するよう努めること」と、努力義務までに留められた。

シェアで「犬猫さがし」を支援!