今国会中に行われる予定の動物愛護法の改正について、生体販売業への規制強化が一部の国会議員の反対により実現できない可能性が高くなっている。その情勢を受けて5月21日、女優の浅田美代子さんらを中心とする有志により、衆議院第一議員会館で緊急院内集会が開催された。
呼びかけから約1週間程度にも関わらず、会場には動物愛護団体関係者や動愛法改正プロジェクトチームに参加している超党派議員、国際文化人のデヴィ夫人やミュージシャンの世良公則さんら多くの著名人も駆けつけ、定員250名の会場は満員となっていた。
訴えられた動物愛護法3つの改正点とは
この集会で訴えられた動物愛護法の改正点は「8週齢規制」「繁殖回数や飼育施設などに関する各種数値規制」「繁殖業の免許制導入」の3つの規制。改正すべき事項は他にも「動物虐待に対する罰則強化」などが挙げられているが、雲行きが怪しくなった今、最低限実現しなければならない上記3つに絞って訴えられた。共通しているテーマは生体販売業への規制強化だ。
8週齢規制とは
犬猫が社会性を身に付けることができるのは生後8週齢とされ、それ以前に親や兄弟から引き離してはならないという規制である。8週齢前に引き離すと人を噛むなどの問題行動が増えるためである。
欧米の多くの国がこの8週齢規制を適用しており、日本でも既に5年前に施工された改正動物愛護法内に明文化された。しかし、附則という形で【別に法律で定める日までの間は、「五十六日」とあるのは、「四十九日」と読み替える】と記載されており、実質49日となってしまっている。
これは日本では子犬・子猫の方が高く売れるという実態があり、一部の生体販売業者から反発を受けて「骨抜き」にされたと言われている。
各種数値規制とは
先日福井県内の動物販売業者が犬猫約400匹を過密状態で飼育、繁殖している様子がニュースに取り上げられた。
(参照)「子犬工場」虐待か否か、平行線 法律の曖昧さが背景に(福井新聞ONLINE)
現在この業者は動物愛護法違反、狂犬病予防法違反容疑で書類送検される方針となったが、業者を取り締まる県の見解は「虐待と認定するのは難しい」とし、対応として最も軽い「指導」に留まっていた。
何故このような対処となるのか。それは数値規制が設けられておらず、明確な基準がないため自治体としても踏み込んだ判断がしづらい状況のためである。
不当な環境で飼育・繁殖する業者を取り締まるためにも「繁殖回数、飼育施設の広さ、従業員一人当たりの上限飼育数」などの明確な数値基準が必要とされている。
繁殖業の免許制導入
現在動物取扱業は「原則自由」の登録制となっている。業者への立ち入りは任意であり業者の実態を自治体が把握できているとは言えず、登録取消処分の基準も非常に甘く実効性がないものとなっている。
より厳しい「原則禁止」の免許制(許可制)へと規制強化を行い、業者への立ち入りの義務化や登録取消処分を厳格化により実効性を高めることが求められている。
何故生体販売業への規制強化が必要なのか
何故数多ある改正事項の中から生体販売業への規制強化を挙げたのか。その必要性を下記の図で解説する。
この図は犬猫の生体販売の代表的な流通過程と、殺処分や里親活動までの流れを朝日新聞の調査記事、ならびに環境省の公表数字を元に簡易に図解したものだ。(平成28年度)
(参照)毎年80万匹前後の犬猫が流通 2万4千匹は流通過程で死ぬ(朝日新聞)
(参照)犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況(環境省 統計資料より)
毎年約80万匹の犬猫が流通し、流通過程で死亡した数と自治体で殺処分された数を合計すると約8万匹の命が失われていることがわかる。明らかに過剰供給であり、どれだけ自治体や愛護団体が譲渡活動に力を注いでも、毎年これだけの流通量がある限り文字通りキリがない状態なのだ。蛇口を閉めない限り、どれだけ桶を大きくしても水は溢れてこぼれてしまう。
犬猫の生体販売の過剰供給という蛇口を閉めるためにも、そして大前提として劣悪な環境で飼育・繁殖される動物の数を減らすためにも、まずはこの3つの規制を必ず実現しなければならない。
この集会の訴えに対し、会場には来れなかった団体も含めて124の愛護団体が賛同(5月20日時点)し、多くの著名人も賛同を表明するメッセージを寄せている。
今国会の会期は6月20日まで。この機を逃すと次の改正は5年後となる。また5年間動物福祉後進国のままとなるかの瀬戸際だ。